*哀訴
それは言葉の形こそとっていないが、そんな必要などないものだった。撃てない、撃てるわけがない。自分が感じるこの思いと全く同じなのだから。ヘルメットを介してのしかかる重みとさえまがう圧力も、自他の思いが溶け合った今もはや感じとれなかった。わずかに残った自我か、機龍の見せた驚愕や混乱の意味するものにようやくたどりついていた。あれは自分の感情が、機龍の中のゴジラにとって意外なものだったことの現れだったのだと。そして一度は自らの意志でビオランテを冷線砲で撃った機龍だからこそ、それがどんな結果をもたらすかも自覚しているのだと。だがそんな省次の認識もどこか他人事のようなものでしかなく、感じ取れなくなった重みは若者の体を金縛りに陥れていた。
けれどそんな間にも、身動きできぬ機龍に煙を噴き上げつつもにじり寄るのをやめぬゴジラ。その煙の中から再び届く切れ切れの声。
「……こんな、こと、君みたいな、人に、頼みたく、なかった。君、優し、すぎる、から」
その呼びかけに、麻痺したようだった意識を掴み直す省次。だが、
「ごめん、なさい。でも、君しか、できない。頼めない」
醒めかけたばかりの心をまともに抉る葛藤の刃に、苦鳴を漏らさずにおれぬ若人。
「生きて。人と、して。君は、まだ、踏み越えて、ないわ。私、みたいに、ならないで」
自分だけが人の群れの中に留まる、そのためにあの人を殺すのか、殺せるのかと思ったとたん、
>何をしてる、撃たんか! 撃てば救国の英雄だ。一族の罪も許されるんだぞ!<
無線から鳴り響く山川の叫びに煮え立つ憤怒の一方で、一族との言葉にぐらつかずにおれぬ思い。
それがじれったいほどの遅さにもかかわらず、機龍との距離をひたすら詰めゆく根の塊としか見えぬゴジラの姿と、動くこともできぬ機械の体に閉じこめられてなお、ボロボロに傷つけられた仲間に思いを向け続ける機龍の在り方に対する、羨望に近くさえある賛嘆の念を掻き立てる。今や省次は確信していた。水爆により元の姿を窺いようもないほど変貌させられたにもかかわらず、彼らは仲間への思いだけは失うことがなかったのだと。それに比べ、種族の歴史を通じ同じ人間同士で殺し合うことをやめられぬばかりか、ついには水爆を、そして対ゴジラ兵器だったはずの機龍さえも同族たる人間に向けようとしている人類という生き物のなんと業深いことか!
それでもせめて、なにも知らされていない人々だけは守らねばならない、見殺しになどできないと自分にいい聞かせつつ、ヘルメット右側面にある冷線砲のスイッチに手をかけてはまた山川の叫びに固めかけた決心を挫かれ機龍の思いのただ中に引き戻される。そんなことを繰り返すうちゴジラの耐性の高まりかそれともビオランテの力の消耗ゆえか、またもやゴジラを灼く煙が薄れゆき、露わになる体高に勝るビオランテの上体。巌の表皮の浸食はもはや肩から首へと登り始め、それを阻もうとするもののごとく己が首の根本に爪を立てる両腕は完全にゴジラと同じ形へ転じていた!
その36 →
https://www.alldesu.com/diary/74008
← その34
https://www.alldesu.com/diary/73685
コメント
もも
2021年 04月07日 00:00
どうなるのかなー
ひとちゃん
2021年 04月07日 00:22
TVでもご覧になりましたが
あの、機龍の冷線砲 凄かったですね
あれは迫力満点だったーヽ(^o^)丿
ふしじろ もひと
2021年 04月07日 04:57
もも様おはようございます。
いよいよ大詰めです。
ふしじろ もひと
2021年 04月07日 04:57
ひとちゃん様おはようございます。
冷線砲アブソリュート・ゼロ、とんでもない威力です。
だからこそ、そんなものを絶対向けたくない相手も出てくるのですが……。